テトのお膳に欠かせない伝統料理
テト(旧正月)は、家族みんなが一緒に座って、過ぎた一年の話をしたり、成し遂げたすばらしいことを語り合ったり、あるいはただ、365日会う機会のなかった身内と顔を合わせたりする大切な機会です。
どの家でも同じです。テトになれば、裕福でも苦しくても、祖父母やご先祖さまに伝統料理をお供えし、子孫が健康で、豊かで幸せな一年を過ごせるよう見守ってくださいとお祈りします。そのささやかな喜びは、テトのお膳を囲んで、バインチュンやバインテット、熱々の豚肉と卵の煮込み、つやつやの白いごはん、そして長いこと食べていなかった酸っぱいラッキョウ漬けを前に、家族が集まるとき、いっそう満ち足りたものになります。名前を聞くだけでテトのにぎわいが感じられ、話題にのぼるだけで家を離れて暮らす子どもたちの笑顔が浮かぶ料理を、ふり返ってみましょう。
バインチュン、バインテット
北部はバインチュン、南部はバインテット。熟練の職人の手によってバナナの葉で手間ひまかけて包まれたちまきは、テトと春の訪れのたびに、ベトナムの人々一人ひとりの心の奥深くに刻まれてきました。
バインチュンは真四角の形をしていて、果てしない天と地を象徴しています。ベトナムの伝統的なテト料理を特徴づける一品です。買ってきたものでも、家で手作りしたものでも、テトに祖先の祭壇にお供えするバインチュンが1つあるだけで、心が温かくなります。
旧暦12月の半ばごろになると、市場では、ひもや包むための葉、緑豆を天秤棒で担いで売る人たちが、にぎやかにお客さんに声をかけ始めます。どの家も、家族にふるまうため、あるいは楽しいテトに大切な人に贈るために、最高においしいちまきを作ろうと、いちばんよい材料をそろえます。
バインテットもバインチュンと同じく、もち米と緑豆で包みますが、形は長い円筒形で、一本一本に作り手の心が込められています。バインテットにはさまざまな具があり、伝統的でとても人気のある緑豆のほか、バナナ、五目、豚の脂身入りなど、どれも非の打ちどころのない独自のおいしさがあります。
最近のバインテットには見た目にも美しいアレンジがあり、伝統的なもち米だけを使う代わりに、ラーカム(紫の色素を持つ葉)を加えて色とりどりに仕上げ、食べる人を楽しませています。
豚肉の煮込み(ティット・コー・タウ)、豚肉と卵の煮込み
北部の肌寒い気候の中、熱々のティット・コー・タウの鍋がお膳に加わり、家族そろって食事をするのを待っている――それはなんと幸せなことでしょう。ティット・コー・タウの主な材料は豚バラ肉で、脂身のコクと肉のやわらかさが楽しめます。
昔の人の言い伝えによると、豚肉とアヒルの卵の煮込みは、家族が上も下も仲睦まじく、豊かに栄えることを意味する伝統料理です。特に南部の人々にとって、豚肉とアヒルの卵の煮込みは、テトに欠かせない心の料理のような存在です。子どもたちの楽しみは鍋で煮込まれたアヒルの卵を味わうこと、大人たちはおいしい肉を分け合い、家じゅうにテトの香りが広がります。
ネギの漬物(ザー・ハイン)、ラッキョウ漬け(クー・キエウ)
この2品は、儀式のお膳と同じように、五行の相生相剋を表すものとして、いつも一緒に並べられます。テトの煮込み肉やバインチュンと一緒に食べる薬味としても親しまれています。ツンとくる酸味と、舌先にほんのり感じる辛みは、テトの間の健康にもとてもよいのです。
鶏肉
ベトナムの人々は昔から鶏肉料理が大好きなので、これがないととても寂しく感じます。北部と中部のテトのお膳には、たいてい、おなじみの鶏肉の皿が並びます。年の初めを順調に滑り出し、一年中幸運に恵まれるという願いが込められているのです。最もよく作られるのはゆで鶏で、鮮やかな黄色の鶏肉を、塩・こしょう・ライムを混ぜたたれにつけて食べると、一口ごとに肉の甘みとうまみがはっきりと感じられます。
タケノコのスープ
タケノコのスープは、テトのごちそうのお膳に並ぶスープの定番です。厚切りにしたタケノコを一晩水に浸け、豚足や鶏ガラと一緒に煮込むと、テトにぴったりの温かな味わいになります。
おこわ(ソイ)
ソイ・ガックは、ガック(ナンバンカラスウリ)の実で炊き上げた、天然の鮮やかなオレンジ色が美しいおこわです。私たち東洋の人々の考え方では、ソイ・ガックは一年中の幸運を表しています。
ベトナムのどの地方でも、テトの雰囲気はいつもにぎやかです。それぞれの家に、それぞれの色合いを持つ独自のお膳があるからです。お膳は目に見える形をしていますが、それがもたらす目に見えない意味は何よりも大きいのです。家族みんなで座って食べ、分かち合い、語り合う――そんな機会はめったにありません。家族と過ごすテト、祖父母と一緒に食卓を囲むひととき、あるいはただ弟や妹に肉を分けてあげるひとときを、いつも大切にしましょう。そんな小さな行い一つひとつが、一生私たちの心に残り続けるのです。
出典:各種資料より